徒然草 第139段「家にありたき木は」

作者名  吉田兼好 (1283?-1353?)
作品名  徒然草
成立年代  bet.1317-1331?
 その他  『日本古典文学大系』本による。
 家にありたき木は、松・さくら。松は五葉(ごえふ)もよし。花はひとへなる、よし。八重桜は奈良の都にのみありけるを、この比(ごろ)ぞ、世におほく成侍るなる。吉野の花、左近のさくら、皆ひとへにてこそあれ。八重桜はことやう(異様)のものなり。いとこちたくねぢけたり。う(植)ゑずともありなん。遅ざくら、またすさまじ。むしのつきたるもむつかし。梅は白き、うす紅梅。ひとへなるがと(疾)く咲たるも、かさなりたる紅梅のにほ(匂)ひめでたきも、みなをかし。おそき梅は、さくらにさきあひて、覚えおとり、けおされて、枝にしぼみつきたる、心うし。「ひとへなるが、まづさきてち(散)りたるは、心と(疾)く、をかし」とて、京極入道中納言(藤原定家)は、なほひとへ梅をなん軒ちかくうゑられたりける。京極の屋の南むきに、今も二本(ふたもと)侍るめり。柳、またをかし。卯月ばかりのわかかへで、すべて万(よろづ)の花・紅葉にもまさりてめでたきものなり。たち花・かつら、いづれも木はものふり、大(おほき)なる、よし。
 草は、山吹・藤・杜若
(かきつばた)・なでしこ。池には蓮(はちす)。秋の草は荻・すすき・きちかう・萩・女郎花(をみなへし)・ふじばかま・しをに・われもかう・かるかや・りんだう・菊。黄菊も。つた・くず・朝顔、いづれもいとたか(高)からず、さゝやかなる墻に、繁からぬ、よし。この外の、世にまれ(稀)なるもの、から(唐)めきたる名の聞にくゝ、花も見なれぬなど、いとなつかしからず。
 おほかた、なに
(何)もめづらしくありがたき物は、よからぬ人のもて興ずるものなり。さやうのもの、なくてありなん。
 


 織りこまれた花   マツサクラゴヨウマツウメヤナギカエデタチバナカツラヤマブキフジカキツバタカワラナデシコハスオギススキキキョウハギオミナエシフジバカマシオンワレモコウ、オガルカヤまたはメガルカヤリンドウキクツタクズアサガオ




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